広告資料館 2014年1月

2014年1月 日産自動車 エルグランド

新年あけましておめでとうございます。
昨年末から今年に掛けて、新聞折り込み広告の数が増え、日本の景気回復が見える様です。さらにここ数ヶ月の折り込みの傾向は、国内の自動車メーカーの折り込みが増えてきたことも景気回復を感じる一因になるでしょう。
今月の折り込みは日産自動車です。見本の画像の下にはまだ半分情報が隠れていますが、折り込みとして目にするファーストビューを中心に、上部半分を取り上げさせていただきます。昨年までは自動車の折り込みと言えば、外国産高級車のイメージ戦略が主でしたが、ヨーロッパメーカーの紙面デザインが徐々にリーズナブルなイメージを前面に出していることと反対に、日本の自動車メーカーの高級戦略を感じさせます。今月の「エルグランド」も全体に重厚な茶色系統の黒を中心に重厚な支配色のトーンで構成されています。紙面中心に光りから延びる閃光を主商品エルグランドが遮り手前、奥の空間を作っています。斜めに置いた車の側面の光からフロントグリルのデザインへ視線が誘導され、「新型エルグランド誕生」へと上手い流れを作っているのが分かります。下半分に情報があるのでこの半分だけで広告全体を判断する事は難しいですか、新聞折り込みを開いて視覚に飛び込んでくるレイアウトとしては十分な効果と言えるでしょう。
新聞折り込み広告に、日本の各自動車メーカーが、ファミリー向けのリーズナブルな広告だけでなく、大人向けの高級路線が出てきた事は新しい展開として楽しみでは有ります。

広告資料館 2014年2月

2014年2月 小林音楽教室

今月は東京都内にある音楽教室の新聞折り込みです。線描のピアノのイラストを中心にキャッチを縦書きにして、情報をL字型に置いた優しく見やすい広告です。ただ、明るいブルーの背景に白い筋の様な物が見えます。これは印刷の「裏写り」と言う現象です。原因は、印刷用紙の厚み不足と、各面印刷色の濃さの問題です。今回はレイアウトやデザインの話では無く、印刷、特に紙に付いて触れたいと思います。
印刷の際、広告作成前に考え無くてはならないのが、紙の大きさ、紙質、紙の厚み、印刷部数、印刷方法等です。制作に際して、まずは印刷条件を決める必要があります。
紙のサイズについては、新聞折り込みは四つ折りした新聞紙の中に収まればどの様な大きさでも良いのですが、新聞折り込みは「B4版257mm×364mm」を標準としています。大きさやページ数によって料金が違うので気を付けたいところです。
本日のテーマ紙の厚みですが、紙の厚みを表示する方法が2種類存在していて、混乱を招く結果になっています。一つは純粋に紙の厚みをマイクロスコープで測り0.05mm(トレーシングペーパーなど)〜0.5mm(ボール紙など)です。インクジェットプリンタの用紙などこの厚みの表示が多いのでは無いでしょうか。次の方法が印刷で使われている「連量(れんりょう)」と言う方法です。これは、4/6版(しぶろくばん)788mm×1091mmの紙を1,000枚重ねた時の重さで厚みを表示しています。(一部例外もあります)50Kgと表示がある紙と200Kgと表示のある紙とでは数字が大きい方が厚みがあることになります。折り込み広告の印刷で使われる紙厚は50Kg〜130Kg程度が主ですが、50Kg〜70Kgではかなり紙が薄く今回の広告のように裏のデザインが干渉してしまいます。大量に印刷をする際に紙の厚が薄ければ印刷料金を押さえる事ができますし、あまり厚い紙では二つに折れないなどの問題も出ます。厚ければ良いのでは無く、目的に合わせた種類や厚みの紙を知る事もデザインの大切な要素です。

広告資料館 2014年3月

KINOKUNIYA「佐賀フェア」

このKINOKUNIYの折り込みは、毎回とても良い写真を使っていることを感じます。デザインは「佐賀」フェアからS字を描いたカーブで手前の「きんかん」「でこぽん」まで綺麗に視線を誘導しています。所々画像合成で、まとめていますが基本は1枚の画像を中心に構成しているが分かります。全体のトーンもイエローのグラデーションの背景で統一されています。今まで、直線的な視線誘導には何回か触れていますが、曲線的な視線誘導はとても恣意的な構成になり、自然に見せるのは難しく、とても参考になる広告だと思います。
バラバラに物撮りした画像を切り抜いて合成するにしても、自然な仕上がりに見せる事は難しく、大きなプロットが無くてはカメラマンも撮影できませんし、効果的な成果物にはなりません。その点この広告はとてもデザインの意図通り撮れている様に感じます。しかし、逆にビジュアルに頼りすぎた広告は訴求ポイントがずれてしまいます。ここにも少し訴求ポイントのズレが顔を出しています。柑橘類の名前の表示の置き方や、したの情報への繋ぎ方に丁寧さに欠ける部分が有ります。特にタイトルロゴの作成に意味不明なルールがあり、デザインを壊しているように見受けます。とてもまとまった広告ですが、文字の周辺の意識は最後までデザインに影響することを教えてくれています。

広告資料館 2014年4月

ダニエル東京

今月も質量共に豊富な折り込み広告が毎朝届きました。
今月取り上げさせていただいた折り込み広告は、ダニエル家具です。ビジュアルはとても高級感あふれる老舗家具店を想起させます。一言で高級感と言いますが、高級な物を高級に伝えるデザインテクニックはとても難しい部類です。輸入車や都内のマンションの広告に見ることが出来ますが、購入後に手元にするパンフレット類と違い、折り込み広告では、購買意欲の増進が重要ですから、「高級そうだから敬遠しまよう。」と言う方向にならないよう気を付ける必要があります。また、ここで重要なのは「高級」では無く「高級感」なのです。高級に感じるデザインとは、どの様な要素を含むのか整理して考える必要があります。
今月取り上げた折り込み広告は間違い無く高級感の有る広告だと言って良いかと思います。一番最初に感じるのはトーンです。全体を支配するのはダークトーンで、「落ち着いた」「伝統的」等のイメージを想起させます。図は同じ色相に墨(黒)を混色して得ることができるトーン変化を表しています。同じシアン系の色に80%程度黒を混ぜるだけで高級なトーンが出来上がります。しかし、トーンを揃えただけでは色に情報が埋没してしまし、伝えるべき内容が伝わらなくなってしまいます。そこでレイアウトの工夫が必要になります。今回の広告は垂直軸を中心に左右対称のシンメトリーの構図を用いています。シンメトリーは、対称性一般のことで、デザインでは左右対称を主にシンメトリーとして解釈しています。2012年12月伊勢丹「大歳の市」でシンメトリーに触れていますが、左右対称の構図はデザイン的に安定していますので色々な場面に多用されます。しかし、動きが無く、使い方を間違えると「ただそれだけ」のモノになってしまいます。
ここで上手く使われているのが「光」です。まとまり過ぎた構図に対して、右上からイスの座面に照らした光が床に落ち、見事にバランスを崩し、視線を動かす事に成功して、空間の把握を与えています。それが一番高級に感じる要因でしょう。