メニューデザインの話

当社で作成したメニューデザインのお話です。

自分でお店を持って始めにメニューや、チラシの広告類を作る際に、印刷屋やさんやデザイナーから「お店の規模にかかわらず印刷は最低1,000部からでなくては」とか「 100部も1,000部も値段はほぼ変わりません。1部の単価を考えると多く作った方が安くなります」等と言われ、大量に使われなかったメニューを抱えていたり、ほんの少しの修正のため頻繁に高額な修正料や印刷料を請求されて納得いかないというオーナーの方もいることかと思います。

当デザイン事務所に、新規店舗開店のプロデュースの問い合わせがきました。その会社とは以前から別の仕事でお付き合いは有ったのですが、今回は全く新しいレストランの企画から依頼したいということでした。
始めの条件では店舗の改装工事費・備品・広告宣伝費の総枠と、1日の売り上げ目標が決まっていました。売り上げ=席数×満席率×顧客単価×座席回転率の計算から成り立ちます。しかし今回のお店は「ゆったりとした時間を感じて頂く」ために回転率は最初から計算外。するとどの様にして売り上げを伸ばす工夫をするかと言えば、満席率を高くすることと顧客単価を上げることだと言うことは誰にでも分かります。
企画やコンセプト、お店のネーミングの話は別の機会に譲りますが今回はメニューについてのお話を続けます。

【プロジェクト】
予算に合ったデザインのメニューを作るために・・・
まず始めにあった予算は開店準備の宣伝広告費を出来るだけ抑えたいとのことですので、絶対に必要な物の洗い出しとその予算の軽減化を図ります。開店して絶対に必要な物と言えば告知ポスターや、チラシ類となりますが、何よりメニューは外せないでしょう。
お店のコンセプトは「ほんもの」「お値打ち」”都会に流れる風を感じるように時間を楽しむ空間を提供します。”当然メニューにもそのイメージが反映されなければならず、予算の内150部作るメニューはXX〜XX万円以内にしたい。しかし、ただ低予算のものを作るのではコンセプトから離れてしまい意味が無くなってしまいます。 メニューをデザインする際に念頭に置くのはお客様がお目当ての物を頼みやすく誘導することです(ただ本音を言えば、お店側の勧めた物を頼みやすく誘導できればベストなのですが)。
私たちが考えたのはまずページ数の洗い直しでした。ページ数が多いと当然印刷代に跳ね返って来ますし、どこに何があるか分からないようなメニューではオーダーの際あわててしまい、お目当ての物と違う選択をしてしまいがちです。そんなオーダーのしにくいお店にはリピータがつきにくいのも事実です。
また価格の改定や消費税の表示方法は別として、メニューのラインナップなどで変更の多い項目を変える度に作り直すのは、現実的ではありません。
しかし、ページ数を減らすために細かい文字でぎっしり詰め込まれたメニューでは逆効果になってしまい、顧客単価のアップは望めません。そこで、変更の多い物をカテゴリーにまとめて差し込みページにし、なるべく変更が少ない物をグランドメニュー、変更がある物をお勧めメニューとすることにしました。 グランドメニューには文字を中心にあまり写真を使わず、逆に差し込みメニューには写真を多用して差別化を図りました。
メニューを分けたことで良かったことは、お客様がまず着席してオーダーをする際お勧めメニューのように強調したものがあると、それを注文する確率が格段に高くなることです。
次に総量と印刷の関係を見直す仕事にとりかかりました。中ページは変更が有っても最小の単位で修正できるように考え、ランチメニューとグランドメニューさらにドリンクメニュー3つに分けてデザイン提案をしました。しかし3タイプのメニューを作るのは、デザイン的にも印刷を考えても経済的とは言えません。メニューの作成は既成のビニールコートされた物ではなく、本物のを感じてもらうための紙の質や印刷の上がりがとても大切な要素なのです。そこで中ページはともかく、表紙は紙問屋まで出向き見本を仕入れて一番しっくりする物を選びましたので、 表紙だけは共有出来ないかと考えました。
表紙各50部2腫100部の印刷と、全部同じものを200部の印刷では2倍以上の違いが有るからです。しかし表紙が同じではお客様にわかりにくいことと現場の混乱を引き起こす可能性がありますので、このアイディアの進行は困難な様に思えましたが、スタッフと打ち合わせを繰り返しているうちに打開策が見つかりました。同じデザインで裏表の色を分け、表紙を兼用する方法です。表紙にはコンセプトに添ったテクスチャを印刷し、メニュータイトルは窓を抜いてそこからのぞかせる方法にしました。「風を感じる」というキーコンセプトから窓の役目を持たせるためにも、かなり早い時期から表紙に穴をあけてタイトルを下のメニューから見せる案が出ていたのでそれを採用し、デザインは決まりました。ランチメニューとディナーメニュー同じデザインで裏表を使い分ける、リバーシブルとして使う方法です。ドリンクはそれぞれのメニューの中に収まるようにしました。
中ページはインターネットでメニューの印刷をやってくれそうな所を探しましたが今ひとつ信用ができず、結局付き合いのある印刷屋さんを通し、オンデマンドで少部数ロットの印刷をすることで予算の軽減を図りました。ページ数が多くなれば、色校正無しのフライヤー印刷専門の業者に出すことも可能です。

デザインと言う物は綺麗で格好いい物を作ることではなく、与えられた条件の下で最良の経済効果を上げる物を作るゲーム(仕事)なのです。今回は予算と顧客単価のアップという二つのハードルを、きれいに越えることができました。
デザインの仕事をしていて満足感を得るのは、厳しい条件をクリアしてクライアントから喜んでもらった時です。


その後。
さらに嬉しかったのは、まったく別経営のうどん屋さんから偶然そのメニューを見て同じように作ってほしいと依頼が来たことでした。良い仕事は次の仕事を呼ぶ事も事実です。